東海村住民参加ミュージカル
「ファーブル昆虫記」公演後記
2002年2月17日、日曜日。
この日は、この東海村住民参加ミュージカルに関わった人達、
全員が一生忘れなれない素晴らしい一日になりました。
思い起こせば昨年の9月より、毎週土・日を使って繰り返し行われてきた稽古。
オーディションによって選ばれた出演者総勢55名。
下は6歳の幼稚園生から上は60歳というバラエティー豊かな顔ぶれ。
それぞれに学校や仕事、主婦業を抱えながらの稽古は、
私たちが想像する以上に大変な事。
「とにかくミュージカルが大好き!舞台に立ちたい!」
まっすぐなキラキラした瞳をした子供達。
小さなお子さんをおんぶしながら振付稽古に参加する主婦の方。
クラブ活動や習い事よりも楽しい!と、元気よく稽古場にやって来るその姿…。
それは、すべてこの日の為に頑張ってきた、汗と涙の結晶なのです。
■ ■ ■ ■
2月12日 いよいよ劇場へ搬入・仕込の日。
地元スタッフと作り上げてきた、玉子パックによる舞台装置が組まれて行きます。
今回のミュージカルでは、演奏も住民参加によるもので
最新のエレクトーン2台による生演奏!
そのエレクトーンを設置する張り出し舞台を作って下さったのは、
なんと地元の大工さん。
初めての舞台仕込に戸惑いながらも、まさに職人!といった、
素晴らしい土台を作ってくれました。
そして劇中では、虫達の一年を表現するのにパニを使用。
そのパニの原画を描いて下さったのも、地元の美術連名の方々。
まさに参加者全員が一丸となっての仕込となりました。
2月13日 初めての舞台稽古。
今回は出演者のほとんどが学校や仕事を抱えながらの為、
しかも平日なので学校・仕事を終えてからの場当りとなります。
ランドセルを背負ったまま、仕事場から直帰で楽屋入りする出演者達。
初めて目にした舞台に歓声を上げながら、ちょっと興奮した様子。
しかし、中には体調を崩して半分泣きながらやってきた子もいました。
お母さんに付き添われ「学校はお休みしたんですが、
どうしても劇場には行くって言うもので…」
風邪が大流行していた時期だった為、何人か辛い状況での参加となってしまいました。
無理をせず、今日は帰って寝るようにすすめる関係者の声をよそに
「客席でいいから見ていたい…」。
小学生とは思えない、まさにプロ根性の一言に私たちスタッフも
この公演にかける意気込みを、 更にひしひしと感じた一幕でした 。
2月14日、15日 2日間かけての舞台稽古。
衣裳をつけ、ワイヤレスマイクをつけ、稽古場とは違った何ともいえない
緊張感に包まれた時間が流れていきます。
2月16日 ゲネプロ。
本番とまったく同じ進行で行う、通し稽古が始まりました。
この日は衣裳はもちろん、メイクもして舞台上にあがる出演者達。
中には初めて化粧をする子供達もいて、
何度も何度も鏡を見て気にしながら…でも、気分はすっかり大女優!
無事に通し稽古は終了。
いよいよ明日、泣いても笑っても、1回きりの本番がもう目の前に迫ってきました。
2月17日 それぞれが、様々な思いを胸に、この日の朝を迎えました。
一生懸命練習してきたダンス、カセットテープに録音して繰り返し聞いてきた歌、
なかなか覚えられない台詞と格闘した芝居…。
この日はなんと、朝10時から最後の通し稽古が行われました。
前日のゲネプロ後、皆の体調も考えて「明日通しはやらない」と説明した途端、
出演者から一斉に「えぇ〜やりたい!」の声。 これには私たちも驚きました。
そして、全員のボルテージは最高潮。本番14時開演。
開演を告げるベルの音。
緞帳が閉まる舞台上、板付きにてスタンバイ。緊張してガタガタ震える体を抑えて、
いよいよ開幕です。
主催者の御挨拶の後、劇場いっぱいに流れるオーバーチュア…
ゆっくりと緞帳が上がっていきます。
〜M1「春の歌」♪森のみんな早く起きなさい春です 花も虫もケモノも 春です〜。
春の妖精、冬眠から目覚めた虫たち…練習に練習を重ねてきた成果を、
出演者55人全員が精一杯演じていきます。
ファーブル先生(演じたのは地元小学校の校長先生!)の目を通して、
春、夏、秋、冬と四季を通して表現される虫たちの世界。
センチコガネムシ・セミ・トンボ・チョウ・アリ・ミズスマシ・アメンボ…
出演者・そしてスタッフ全員の 気持ちがひとつになった瞬間です。
今回の為に書き下ろされたオリジナルの曲にのせての大ダンスナンバー。
自然の試練を表現した「嵐」のシーン。
「生きるしあわせ」をかみしめて唄う、温かいメロディ…。
地元のスタッフの手作りの衣裳・小道具…すべてがスポットライトをあびて
輝いてみえました。
そして迎えた感動のカーテンコール。
熱が下がらなかった人もいます。
極度の緊張から泣き出した人もいます。
友達とケンカしてしまった人もいます。
けれど、稽古から頑張ってきた55人、全員が舞台に立ちました。
そして、満員のお客様からたくさんの拍手を受けました。
袖で見ていた私も、感動で涙を抑える事が出来ませんでした。
やり遂げた達成感、充実感、一緒に頑張ってきた仲間達の友情…
皆、最高の笑顔の一日でした。
今回の住民参加ミュージカルは、出演者・裏方そして関係者の全員の胸に
大切な思い出のひとつになった事だと思います。
観に来て下さったお客様からも「想像していたより大変素晴らしかった」
「とても感動した」「観に来て良かった!」…と、たくさんのコメントを頂きました。
舞台を作り上げていく素晴らしさ、そして、人と人との出会いの素晴らしさ…
色々な事を学んだ、とてもステキな体験でした。
「また絶対に会おうね」。
劇場を後にする皆が、口々に声を掛け合ったのは「さようなら」ではありませんでした。
この素晴らしい出会いを大切に、これで皆離れ離れになってしまうけど、
どこかで繋がっている…
ひとつの感動を共にした「仲間」として、貴重な時間を共有した「仲間」として…。
心から「ステキな思い出をありがとう」!
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